ピティナ・ピアノコンペティション

どうしてますか?コンペ・グランミューズ部門の選曲

どうしてますか?
コンペ・グランミューズ部門の選曲

世はまさに空前の大人ピアノブーム。ストリートピアノからコンクールまで楽しみ方はさまざまですが、今夏ピティナでは、コンペグランミューズ部門に延べ1680組の方が参加されました。限られた演奏時間の中で持てる力を最大限に発揮するため、みなさんどのようなご苦労・工夫があるのでしょうか…今回はコンペにおける“選曲”にスポットを当ててみました。

グランミューズ全国大会会場で聞いた“選曲”の方法

コンペのステージでは、演奏時間に制限があります。予選・本選は5~7分(B・Cカテゴリーは4~7分)と定められ、その中でいかに曲を構成し、テクニックや表現力をアピールするかが問われます。コンクールというステージにおける曲の向き不向きもあるかも知れません。コンペ出場者の方は一体どんな基準やスタンスで選曲をされているのでしょうか?コンペグランミューズ部門全国大会の会場王子ホールで、出場者の皆さんに“選曲”の方法について直接伺ってみました。

B2カテゴリー
海原康孝さん
スクリャービン:《2つの詩曲》Op.32
~制約を味方にして~

長いブランクを経て7年前にピアノを再開しました。手も小さく、速く動く指も持ち合わせておりません。今年から単身赴任で自宅にピアノがなく、さらに極度のあがり症です。
そうした条件を鑑み、短い曲の2曲構成で、1曲目はゆったりした曲を置くことにしました。会場のピアノのタッチが重くても落ち着いて弾けますし、練習も効率的に進められるからです。また、異なる世界観を味わえる点も魅力でした。最終的に選んだ曲は、スクリャービンの「2つの詩曲」Op.32です。

Cカテゴリー
林節子さん
徳山美奈子:《ムジカ・ナラ》
~先生からのお勧めと、同門からの刺激を受けて~

これまでショパンやシューマンなどを学んできましたが、先生のお勧めでプーランク、ベルクなど近現代の作品に取り組むようになりました。響きの工夫に面白さを感じています。徳山美奈子さんの《ムジカ・ナラ》は以前から知っていた曲で、いま奈良に住んでいることもあり挑戦を決意。独特の響きやリズミカルな要素、盛り上がりのある構成が、限られた時間に収まる点も魅力でした。

B1カテゴリー
石川光さん
矢代秋雄:《ピアノ・ソナタ》第1楽章、第2楽章
~2年連続で挑む理由~

これまでリストの《ハンガリー狂詩曲》で出場していましたが、先生の勧めで昨年から矢代秋雄のソナタに挑戦。今年もさらに深めたいと思い、同じ曲で臨みました。譜読みは大変でしたが、物語を読み解くような魅力があり、音色の幅も広がったように感じます。会社員なので平日は1~2時間、休日は8時間弾くこともあります。

B2カテゴリー
和田山弘剛さん
スクリャービン:《幻想曲》Op.28
~未知の領域へのチャレンジ~

カット規定は気にせず、先生が勧めてくださった曲に挑みました。技巧だけでなく表現力も求められる難曲で、自分には未知の領域でした。本来は昨年のコンペに向け準備していましたが、事情で半年ほどピアノを離れ、再開は昨年12月。その後半年間の準備で臨みました。練習は1日1時間を目安としつつ、繁忙度の波に合わせて向き合っています。

B1カテゴリー
矢野晶子さん
チャイコフスキー:《ドゥムカ》Op.59
~弾きたい気持ちを大切に~

選曲ではまず「自分が弾きたいこと」、次に「コンクール向きの技術的な要素」、さらに「分数制限内で見せ場があるか」を基準に、先生と相談しながら決めます。私はロシア音楽が好きで、候補をいくつか挙げ、YouTubeで演奏を聴き比べました。実際に会場で耳にして気になる曲もありましたし、今後も弾きたい曲はたくさんあります。これからもピアノを続けたいです。

過去3年にみるコンペ選曲ランキング(予選)
2025年
順位 作編曲者:曲名 選択数
1 徳山美奈子:ムジカ・ナラOp.25 32
2 ラヴェル:水の戯れ 25
3 グラナドス:演奏会用アレグロ 20
4 ショパン:ノクターン第13番Op.48-1 19
4 ショパン:バラード第3番Op.47 19
6 ショパン:スケルツォ第2番Op.31 18
7 ショパン:ピアノ・ソナタ第2番「葬送」Op.35第1楽章 17
7 ドビュッシー:喜びの島 17
7 ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第17番「テンペスト」Op.31-2第3楽章 17
11 サン=サーンス:アレグロ・アパッショナートOp.70 15
11 ショパン:バラード第1番Op.23 15
11 プロコフィエフ:ピアノ・ソナタ第3番「古い手紙から」Op.28 15
2024年
順位 作編曲者:曲名 選択数
1 徳山美奈子:ムジカ・ナラOp.25 27
2 ショパン:バラード第3番Op.47 26
3 ラヴェル:水の戯れ 24
3 ショパン:バラード第1番Op.23 24
5 ドビュッシー:喜びの島 21
5 ラフマニノフ:楽興の時Op.16第14番 21
7 ショパン:舟歌Op.60 19
8 グラナドス:演奏会用アレグロ 17
8 ショパン:ノクターン第13番Op.48-1 17
8 リスト:巡礼の年 第2年「イタリア」S.161/R.10 A55「ペトラルカのソネット第104番」 17
8 シューマン=リスト:《献呈》S.566 R.253 17
2023年
順位 作編曲者:曲名 選択数
1 徳山美奈子:ムジカ・ナラOp.25 30
1 ショパン:バラード第3番Op.47 30
3 グラナドス:演奏会用アレグロ 24
3 ラヴェル:水の戯れ 24
5 ドビュッシー:喜びの島 21
5 チャイコフスキー:ドゥムカ~ロシアの農村風景~Op.59 21
7 ショパン:ノクターン第13番 Op.48-1 20
8 ショパン:バラード第1番Op.23 19
9 ショパン:ピアノ・ソナタ第2番「葬送」Op.35第1楽章 15
10 ショパン:ピアノ・ソナタ第3番Op.14第1楽章 14
10 ショパン:舟歌Op.60 14
10 ショパン:ポロネーズ第6番「英雄」Op.53 14
10 リスト:リゴレット(演奏会用パラフレーズ)(ヴェルディ)S.434 R.267 14
今年度のコンペ・グランミューズ部門参加者にきいてみました

《回答:122名》

コンペで演奏する曲、どのようにして決めていますか?
  • 自分の弾きたい曲を弾いている(51%)
  • 先生と相談して決めている(23%)
  • 先生と相談して決めている・自分の弾きたい曲を弾いている(24%)
  • 自分の弾きたい曲を弾いている・コンクールなどの課題曲から選んでいる(2%)

好きな曲でステージに立ちたい、好きな曲だから磨き上げたい…という個人の意思が強く反映された結果だと思います。

死ぬまでに弾いてみたい曲はなんですか?
曲目 人数
ショパン:幻想ポロネーズ 4
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番 4
スクリャービン:ピアノソナタ第5番 3
ショパン:英雄ポロネーズ 3
ショパン:ピアノソナタ第3番 3

この質問では「技術的大曲」「精神的大曲」「編成的大曲」約70曲の回答があり、さすがグランミューズ、さまざまな曲を知っておられ、それがピアノを弾くモチベーションとなり、ひいては人生の目標ともなっておられることを感じます。「コンクールの演奏時間になかなか合わなくて(長い曲なので)取り組みが後回しになりがちですが、いつかは弾いてみたいと思って温めている」と言う回答や、「1曲に絞り切れない!」という回答もありました。

グランミューズ・オンライン座談会
『ムジカ・ナラ』を語り尽くそう!

過去3年連続でコンペ・グランミューズ部門で選曲ランキング1位となった「ムジカ・ナラ ~ピアノのために」は2006年11月に行われた第6回浜松国際ピアノコンクールの委嘱作品であり、同コンクール第二次予選の課題曲として徳山美奈子によって作曲されました。寺の鐘の響きを表す低音で始まり「いにしえから舞いこんだ蝶に導かれて、奈良の昔の姿が映し出され」るという内容。これまでにコンペの舞台でムジカ・ナラを演奏くださった方にパネリストとしてご登壇いただき選曲の決め手、曲に対する想いを語っていただき、「なぜムジカ・ナラはトップであり続けるのか」を楽しく検証してみたいと思います。

日時 9月27日(土)20:00〜21:00
形態 オンライン(zoomを使用いたします)
登壇者
(パネリスト)
ファシリテーター:浅田陽子
穴水 佑輔さん(神奈川県:Yカテゴリー)
久保井 稔さん(福岡県: B2カテゴリー)
林 節子さん(奈良県:Cカテゴリー)
渡辺 富美子さん(広島県: Cカテゴリー)

曲にまつわるグランミューズ座談会…今後「水の戯れ」を語り尽くそう!、「ショパン:バラード第3番」を語り尽くそう!の企画も開催検討中です。


関連情報
曲選びの参考に…
ピアノ曲事典

約90,000項目!ネット最大級のピアノ・鍵盤音楽データベースです。いま練習している曲、憧れの曲、作曲家について調べて見ませんか?演奏動画や開設が多数掲載されています。

コンペグランミューズ部門入選者の紹介
2025年度 最終審査結果一覧 グランミューズ部門

2025年度結果一覧へ

交流・研鑽、発表の場に
グランミューズサロン

「グランミューズ・サロン」は、ピアノを通じた新しい大人の交流の場です。
私たちの愛するピアノという楽器は、素敵な空間、そしてそこに集まる人々とともに、その魅力を発揮します。なんでも手軽に持ち運び出来てしまう時代・・・だからこそ、ある「場所」に生身の人が集まって楽しく学びたい。そんな人たちのためにピアニストが、新しいコミュニティ作りを目指します。