開催レポート:保護者向けセミナー「ピアノのステージで子どもが育つ」
2023年3月4日(土)には「ピアノのステージで子どもが育つ」と題する保護者向けオンラインセミナーを開催しました。講師には、「ピアノって本当に脳にいいの?」で連載いただいた脳科学者・瀧 靖之先生と、ピアノ指導者、コンペ審査員、そして保護者として長年ピアノ学習者と関わってこられた熊谷麻里先生のお二方を迎え、ピアノのステージが果たす役割についてお話しいただきました。
保護者の皆様が今抱えている不安や悩みを、脳科学の専門家と経験豊富な指導者に聞けるチャンスということで高い関心を集め、お申込者746名、3日間限定のアーカイブ視聴回数は約2000回に上りました。お二人による講演につづき、後半はテーマトークとして、事前アンケートから抽出した質問に、瀧先生からは脳科学的な見解を、熊谷先生からはお教室での実例などをお話いただき、非常に共感度の高いやり取りが交わされました。
セミナー参加者分布
- アンケート有効回答数 N=746
テーマトークQ&Aより
746件のアンケートの中から多くの方に共通する悩み、質問をピックアップし、お二人にQ&A形式でお答えいただきました。要旨をご紹介いたします。
ステージの経験が子どもの脳や心の成長に与える影響とは?
楽器演奏は、3~5歳ごろ発達する巧緻運動はもちろん、楽譜を見る、ワーキングメモリを使う、耳を使って常にフィードバックをかける、コミュニケーションを取るなど思春期に発達のピークを迎える高次認知機能まで、脳の様々な領域とネットワークの発達を促進します。また「楽しいからやりたい」という内発的な動機づけは知的好奇心、学習の自己主体性を育み、学業や仕事での能力開発にもつながるだけでなく、脳の加齢も抑えるという、生涯にわたり非常に重要な役割を果たします。(参考 )
それに加えて「ステージに立つ」ことで、明確な目標を定め、そこに向かって計画を立てて実行するという「実行機能」が備わります。何かに向かって努力をして「やり抜く力」、これこそが人生において本当に大事です。さらに楽器でも勉強でも仕事でも、上達し成績を上げるためには、何が自分に足りないのか、どうやったらうまくできるようになるのか、自分自身を客観的に眺め考える「メタ認知」が重要になります。コンペのような場を通して、意図的にちょっと立ち止まって振り返り、修正していく、その習慣を作ることはとても大事な成長の機会ですね。
「ステージに立つ」ことは、このような様々な非認知能力-実行機能、知的好奇心、やり抜く力、メタ認知-を育てる上でとても大事な経験です。また、子どもたちは大きくなると、人前で発表する、プレゼンテーションする機会が必ずやってきます。その時に、こうした経験を何度も乗り越えてきたという気持ちは、圧倒的にプラスになります。人前に出る度胸もつきますし、それが子ども自身の自己肯定感、「自分自身が頑張れば自分を変えられる」という自己効力感につながるので、ステージ経験は様々な非認知能力に対して非常にポジティブな効果があると思います。
ピアノと部活、勉強、受験、他の習い事との両立は、どう影響しますか?
一流のアスリートというのは、案外そのスポーツだけをやっている方は少なくて、実は他のことも色々とやっているとよく言われています。勉強でも、今日は算数だけ、今日は国語だけ、とやるよりも、少しずつ毎日やった方が効果があるということも言われています。これを「多様性学習」というのですが、一見関連しなさそうなピアノと勉強やスポーツなどでも、実はそれぞれの間にかなり大きな関係性があり、身体の使い方、頭の使い方、時間の使い方が分かってくるので、学習する上で確実にメリットがあると言われています。
とはいえ、中学受験など本当にやることが非常に多いのでなかなかできないかもしれません。身体を壊さない程度に、睡眠を無理に削らない程度であれば、できる範囲でやるというのは非常に素晴らしいことだと思います。(参考 )
娘は小さい頃からピアノをやっていてコンペも出ていて、高校受験をする中3の時も弾いていました。やはりあれだけピアノをやっていれば、勉強に対する集中力も相当できていて、勉強への向かい方にもすごく役立ったと思いました。また別の生徒は願書にこんな内容を書いていました。「幼稚園の頃からピアノと剣道に懸命に努力してきたのを自負している。特にコンクールでの上位入賞は自信につながった。努力が結果につながらず、苦しい思いもしたが、周囲の人の温かい励ましで乗り越えてこられた。中学生になっても努力と周囲の方への感謝を忘れず、自分自身も人の痛みに寄り添い、支えられるような存在になりたい。」(※要約)こんな風に、ピアノをやってきたことを自分の自信として願書に書けるというのは、一生懸命やってこなければ無理だったわけですし、受験の成功に結び付けられた一つの要因かもしれないと思い、胸が熱くなりました。
もちろん、残念ながらうまく両立できなかった例もあります。例えば、塾や部活動で週に6日とか取られてしまう場合。その子はほとんど自分の時間がなくなってしまうので、その中でピアノをさらに入れるのは難しいと思いました。うまくピアノの時間もとれるという勉強の仕方でしたら、十分にピアノは続けていけるし、受験に役立つこともあります。すごく忙しい時には少しお休みするとしても、やってきたことを全てやめて何もなくしてしまうのではなく、続けることで「やり続ける力」をピアノでつけることもできるし、その後の人生に向けて選択肢をたくさん持つという意味でも、ピアノを続けていけたらいいかなと思います。
年齢が上がり、緊張してステージで力が発揮できないことが多くなりました。緊張のコントロールの仕方は?
子どもたちは社会性を身に着けてくると、人からどう見られるかという、共感性、社会性が育ってくるので、それとともに緊張するようになるのは当然のことです。むしろそれは、ちゃんと成長の過程がちゃんと伴っているということの証拠です。
とはいえ、今までやってきたことをどうやってアウトプットしていくかというのも、すごく大事ですよね。ストレスや緊張、不安を和らげるために日常生活でできることをお話したいと思います。
1つ目は「運動」です。運動は単に身体を鍛えるだけではなく、扁桃体という感情を司る領域の暴走を抑えてくれます。軽く走るなどの有酸素運動を習慣化しておくと、いざという時に、ドキドキやイライラといったストレス反応を鎮め、感情をコントロールしやすくなることが明らかになっています。
もう1つ大事なことは「睡眠」です。睡眠は疲れをとるだけではなく、ストレスを軽減するという意味でとても重要です。特に眠りの後半のレム睡眠が、感情のコントロールに重要な働きをするので、睡眠時間をしっかり取ることが大切です。
「瞑想」も大切です。ちょっとソファでぼーっとして、今自分自身がどんなことを考えているな、どのくらいストレスを感じているかな、ということを客観的に見られるようにしておく、というようなことです。
「朝食習慣」もすごく大事です。勉強とも同じで、効率よく脳を使うには、砂糖が多く血糖値がすぐに上がりすぐに下がり始める菓子パンや甘いシリアルよりも、できれば普通のパンやお米を主食にした方が、脳の発達にはいいと言われています。
また、何でも一発でやろうとすると本当に緊張します。本番に似た機会をたくさん与えて、その状況に対するファミリアリティ(親しみ)を作ってあげることで、緊張を和らげることができます。いわゆる「場慣れ」ですね。リハーサルや本番に近い環境、またはたった一人でもいいから他人に見てもらうなどをしておくと、圧倒的に緊張をコントロールする力がつくと思います。
もう1点挙げると、習慣的な運動によって脳をプラス方向へ「誤認識させる」ことができます。走った時はドキドキしますが、その後ストレスが取り除かれると爽快感があって気持ちがいいですよね。緊張も同じで、交感神経系が優位だとドキドキするのですが、運動習慣によって「ドキドキ=緊張」ではなく、「ドキドキ=心地いい」と誤認識させることができるのです。 (参考 )
やはり緊張は仕方ないと思いますが、前に何回も本番を作ってあげると、経験上全然違うという実感がありますね。あとは、舞台袖の皆さんの緊張感がすごくて、それに呑まれてしまうことがあります。手袋をして膝の上でギリギリまで練習したりするのを見て、さらに緊張を高めてしまい、自分はどうしたらよいのか分からなくなったり。それも一つの場慣れなのですが、お母さまの方から、そういう子がいるかもしれなないけれど気にしなくていいんだよ、と先に情報を入れておいていただけると、現場で動揺せずにいいかもしれません。
あとは、本番前には、その曲のことばかり考えて、わーっとなるよりも、今日終わってから何食べようかな、おうちに帰ったら何しようかな、など終わった後の解放された気分のことを考えていてね、と話すことが多いです。他には、「もうこれだけ練習したんだから大丈夫!」という自信を持って行くとか、演奏前の時間はぼーっとしたらよかったとか、チョコを食べて糖分を補給したとか、すごく個人差があるのですが、本番を重ねていくうちに、自分なりの方法が分かってくると思います。
子どもの年齢によって、効果的な練習時間、時間帯、練習方法はありますか?また、集中力を養う方法は?
集中力の発達のピークは思春期ごろなので、逆に小さいお子さんは集中力がないのが当たり前で、年齢とともに高まってきます。また、頭を使うと脳も疲労してくるので、あまり脳が疲れていない時、つまり夜よりは朝の方が集中力が高い、ということが脳科学的には言えます。
もう一つ、集中力を高めるのにいいのは「運動」と「睡眠」です。緊張を取り除くのと全く同じことなんですね。集中するというのはかなりエネルギーを使い、そこにはストレスなど様々な阻害要因が関わってきます。ストレスや悩みを取り除くのが大事なので、結局は身体を動かし、しっかりと寝ることです。
個人差があり一概には言えませんが、集中力はだいたい15分くらいまで持続して、そこから少しずつ落ちていくと言われています。そのために、勉強でよく言われるポモドーロ法のような、25分やって5分休むのを繰り返すというのは、集中力の持続という観点からも理にかなっていると思われます。
楽器演奏にしても勉強にしても、最初と最後、あるいは盛り上がったところは覚えやすいのですが、それ以外の所は覚えづらいというのがあります。ですから、何時間もぶっ続けでやるよりは、30分程やったら少し休憩を入れる。その間も、スマホやゲームなどで頭を使わず、できればぼーっとする。それが定着にもつながると言われています。ですから、午前中、30分程度で区切ってちょっと休憩を入れながら、というのは、一つの合理的なやり方かなと思います。
小さい子は集中力が続かないものなので、練習方法を工夫するとよいようです。昔、今年のA1級の課題曲の「バスに乗って」のスタカートとレガートを練習するという宿題を出した時に、あるお母さまが、20回練習したら1つシールを貼り、レガート号とスタカート号の2台のバスが山の頂上まで行く、というものを作ってくださいました。お子さんが一番楽しい方法を知っているのはお母さまなので、少しでも練習に楽しく集中できるグッズや方法を工夫してあげるという素晴らしい例だと思いました。ただ「練習しなさい」「はい、弾きなさい」では子どもにとっては酷な話で、例えば20回部分練習をするのであれば、一緒に横にいて、あと2回、あと1回、とカウントダウンしてあげるのでもよいと思います。先が見えない練習ではなくて、これだけやったらジュース飲もうね、などとちゃんと子どもにも分かる目標を作って、先が見えるやり方をしてあげるとよいのではと思います。
おうちだと集中できないのは、自分の興味があるものが周りにいっぱいあるからなので、集中したい時にはグランドピアノのスタジオをレンタルして練習される方もいらっしゃいます。そこにはピアノしかありませんし、グランドの練習にもなり、環境が変わって気分転換にもなります。
効果的な練習と言えば、昔、脳のことに興味を持って、息子が夜頑張って練習してもうまくいかなかった時に、そのまま寝かせてみたところ、翌朝一発目で弾けたということがありました。
私たちの脳っておもろしろくて、寝ることで記憶を固定させているのです。覚えたものを忘れるのは、記憶の攪乱のせいだと分かっているので、特に暗記ものは最後にやって寝るというのは受験勉強の鉄則ですが、物事の記憶だけでなく、身体の記憶も同じなので、熊谷先生のやられたことは非常に合理的です。
また、子どもたち何かをやらせる時に、そのままストレートにやらせるとやれないけれど、ゲーミフィケーションと言って、あたかもゲームのように変えることで、その行動が達成しやすくなるというのがあります。何回か弾いたらバスが少し動くというアイディアは素晴らしいなと思いました。
長期間のモチベーションの保ち方、ピークの持って行き方が難しいです。練習スケジュールや声掛けの工夫は?
これは受験勉強など全てに共通するすごく重要な質問ですね。そもそもモチベーションを維持するということは決して簡単ではありません。受験でもコンペでも、それ自体をゴールにするのではなくて、それを乗り越えた先にある楽しさというのを、しっかりとイメージすることが大切です。ただし子どもにはなかなか分からないと思うので、保護者や指導者の方々が伝えてあげる必要がありますね。
その上で、そこから区切っていくことが大切です。子どもって遠い将来のことだけではなかなか動けません。そのゴールに向けて、じゃあそのためにはこの1か月、この1週間、この1日、この時間に何をしていけばよいのか、と細かく刻んで伝えてあげると、動けるようになるというのが一般論です。
実際にコンペにおいて本番に向けてどういう風にピークを持って行くかというのは、基本的には指導者が考えることなので、先生とよくご相談されるのがよいと思います。私の教室では、コンペの長い予選期間のモチベーションを維持するために、次のような作戦をとっています。
モチベーションアップ作戦その1「本番を作る」。5月ぐらいにコンペに出る子たちで弾きあい会をし、6月にはステップに出ています。その時に、暗譜で弾く、4曲続けて弾くなどしっかりと目標を立てて臨みます。本番を作るとやっぱり練習するんですよね。家族の前できちんとおじぎをして通して弾くなどもよいと思います。できれば年の近い子が頑張っているのを聴いて刺激を受けさせてあげるといいと思いますし、ステップではアドバイスもいただくことができます。
モチベーションアップ作戦その2「自分だけじゃない、みんな頑張っている」。苦しくなってくると、自分だけが何でこんなに大変なのかと思ってしまいます。みんなも頑張っているんだと分かるように、教室のメンバーだけで見られるSNSを使って、レッスンの様子や予選の報告を、保護者の方々に書き込んでいただくようにしています。それを見ると、お互いに刺激を与えあったり、共感したり、応援したりして、「私も頑張ろう」と思ってくれているのかなと思います。
中・長期的にできること
楽しい目標をしっかり決め、それを明確なモチベーションとして持つことです。人の感情と記憶は密接に関わっているので、人は楽しいと覚えられる、楽しくないとできないのです。楽しいという感情にいかに持って行くかというのが、脳科学的には大事だと思います。
それからやはり生活習慣を作るのが大事です。しっかり寝る、しっかり朝食をとる、そして身体を動かす。そうした生活習慣を作っておくことで、緊張などの感情をコントロールしたり集中力を高めやすい脳を準備することができます。
直前(前日、当日、舞台袖)の過ごし方
あくまで脳科学的なことを少し言えるだけなのですが、やはり集中力を高めておくのが大事だと思います。直前には、緊張するしお腹もすくからといって、血糖値が急激に上がって下がるような甘いチョコレートばかり食べるよりは、あまり血糖値が変動しないタンパク質や炭水化物を摂る方がよいですし、直前にあまりお腹をいっぱいにする必要もありません。そうした食なども少し気にかけていただけるとよいと思います。
それから、最後はやはりイメージがすごく大事なんです。頭の中で、自分自身の作品のイメージ、その作品をうまく表現できたというイメージ、自分の力を出し切ってうまくいったイメージを持っておくことです。人は明確なイメージを持っていると、無意識のうちにそこに寄っていくような行動をとることがよく言われています。
頑張りが結果として表れなかった場合の挫折感や虚無感が、子どもの脳や精神へのマイナス要因にならないか心配です。
どうしてもコンペティションでは上の方がいれば下の方もいらっしゃるので、ショックを受けるかもと心配になるのは当然だと思います。ただ、「ピアノのステージに立つ」ということがいかに緊張して、その舞台に立って弾ききるというのがいかに大変なことなのか、保護者の方も自分が経験すれば分かると思いますが、これに「挑戦したこと」こそが、本当に素晴らしいことなのです。当たり前のことなのですが、それを強調してあげることが、子どもにとってすごく大事なことです。
それからもう一つは、結果が出ないからとやめてしまったらそこで終わりですが、そこでやめずに続けていけば、それは失敗や挫折ではなく、単なる「通過点」になるということです。そういうポジティブな感情は確実に子どもの脳を成長させます。結果にこだわるのではなく、あくまでも過程であり、通過点であり、長い人生のほんの一部であり、そもそもチャレンジして素晴らしい、ということを子どもに伝えていくことが大切かなと思います。
コンクールへの参加は、うまくいった時の喜びはもちろんですが、良い結果が出なかった時に、子どもはひどく落ち込んでしまい、辛い思いをさせてしまったかと思うと、挑戦することへの迷いが生じます。本人が「失敗」と感じる体験をした場合、親はどうしたらよいでしょうか。
コンペに失敗して泣いている時には、とにかく泣かせます。子どもは泣くことで発散しているのですし、わぁわぁ泣いている時に何か言うのは全く意味がないと思うので、その時は何も言わずに一晩泣かせます。そして、必ず美味しいものを食べて、好きなことをやって思いっきり遊ばせます。子どもって意外と気分転換が上手なもので、ひとまず寝たら、翌日にはけろっとしていました、ということがよくあります。だからお母さま方も、泣いている子どもたちを可哀そう、どうしようと思いすぎないで、頑張ったから悔しいんだから、泣きたいんだったら思いっきり泣かせていいと思います。
その後、子どもが落ち着いてきたなと思ったところで、頑張ったよね、とたくさん褒めてあげてください。悲しい、悔しい気持ちが落ち着いてきた頃にたくさん褒めてあげると、そちらの気持ちの方が上にくるので、すごく大事だと思っています。次にもっと落ち着いたら、今回何がだめだったか、次はどうしていこうかと話をすると、子どもももう次に向かって頑張れる気持ちになっているんですね。
人は失敗して成長するものなので、何でうまくいかなかったのかを、ちゃんと分析して自分で納得できた子は、間違いなく次に向かえます。失敗しないとそういうことを考えないので、全てうまくいっていたらなかなかできないことです。だからたくさん失敗していいと思うんですよね。そこから学ぶことってたくさんあって、そうやって人間は成長していくのだと思います。失敗で終わらせないで、次に向かうことが大事です。コンペではそういう機会を与えてもらっているので、自分で分析して納得して次に向かう力がつけられると思っています。
あるお母さまが、子どもが落ち込んでいる姿を見て、出してよかったのかと悩んでいた時に、先輩ママから「ダメでも、逆境から立ち直る練習をさせてあげられているのよ。人生にはむしろこういう経験の方が重要。ピアノを頑張ったからこそできる経験だよ。うちもそうだったけれど、今はそういう辛い経験をしてよかったと思っている」と言われたことを教えてくださいました。最初言われた時には分からなかったけれど、何年も頑張っているうちに、本当にそれを痛感するようになりました、と仰っていました。落ちる辛さを知っているお子さんは、自分がうまくいった時もおごらず、だめな時にも受け止めて、また頑張ればいいんだと、次に向かう気持ちが作れる、非常に心優しく強い子に育ちます。メンタルがすごく強くなるので、受験を乗り越える力にもなりました、という話もすごくよく聞きます。
課題を自分で設定して乗り越えて成長して欲しいと願つつも、時間がかかるのでイライラしてしまいます。/親が練習に口を出すと不機嫌になり、親子ともにストレスを感じてしまいます。
脳科学的な見地から申し上げますと、やはりオーバープロテクション、過干渉はよくないということが分かっています。他方で私も親の立場からすると、どうしても口を出したくなる、とても難しい問題だと感じています。
親の声かけとしましては、褒め方のポイントがあります。褒められると単に嬉しいだけではなく、褒める頻度が高いほど脳は発達すると言われています。そして、結果や才能を褒めるよりも過程や努力を褒めた方が断然いいのです。なぜかと言うと、才能を褒めてしまうと、それが傷つくことはしなくなるからです。ですが、努力を誉めると、努力して変化を起こそうとします。それこそが子どもにとって大事なのです。
また別の観点からの親子の関わりについて申し上げますと、人の脳には「模倣」に特化したミラーニューロンがあり、相手の動きだけでなく感情も模倣するというお話をしましたが、私たちは子どもに素敵な趣味を持たせてあげよう、楽しくやってもらおうと思うならば、保護者自身が楽しいと思うことをやり、その姿を見せてあげることが一番だと思います。「もう歳だから…」と仰る方もいらっしゃるかもしれませんが、私たちは何歳になっても脳には可塑性という変化する力が備わっているので、何歳からでも始めれば確実に能力がつきます。ですから、親子で一緒にやるといいと思います。もちろん、子どもの方が能力がつくのが早いので、すぐに親は打ち負かされます。でもそれがいいんです。子が親を乗り越えるというのは一つの幸せですし、親の脳の健康も保たれるので非常にお勧めです。
私は年齢によって親と子の関わり方を変えています。A2~B級までは、生徒と保護者と指導者の3人で頑張る。高学年のC級になると、保護者の方にはまだ関わっていただきますが、全部親がかりではなく、子どもたちに任せる部分が多くなってきます。D級になると、生徒と指導者の2人で頑張ることになります。
子どもの自主性と親の関わり、これは永遠の課題かなと思います。自主的にやるというのは本当に難しくて、やりなさいと言わないとやらないなら、やっぱりそういう声かけは必要だと思うんですよね。お子様の性格を一番分かっているのは親なので、どういう風に声をかけたら、その子が怒らずに、嫌な思いをせずに納得してやるのか、自分だったらどんな声かけをされたら嫌なのか、考えながらやっていく必要がありますね。そして、悩んでいることはぜひピアノの先生に相談されるとよいと思います。親の言うことは聞かなくても、先生の言うことならば聞くのだったら、「次これを練習してきてね」ではなく、おうちでやる課題をできるだけ詳しく出してきてもらうとよいと思います。「今週はここを70回弾いてきてね」など、その子の性格に合わせて、具体的に子どもがやりやすい課題を出してもらいながら、子どもの自主性が育つのを見守っていくよりないかなと思います。
春から小3です。ある程度まで弾けると「このくらいでいいや」と練習意欲もストップしがちです。あと一歩乗り越えて欲しいと思うのですが、どのような声かけや環境を作っていけばよいでしょうか
参加者の感想より(抜粋)
- ステージ経験がいかに素晴らしいことかを再認識することができました。本番に向けて日頃からできること、緊張に対する気持ちの持ち方、また結果が出たときの声掛けの仕方など、とても勉強になりました。脳科学という学問からと、実際に多くの生徒さんをコンペに送り出されている先生のご経験からの二面からお話が伺えて良かったです。
- ピアノのコンクールに出る事で感じている子供の変化を、改めて理論的に聞くことが出来て納得出来ました。また、日々悩んでいること、今後出てくるであろう悩みについても、具体的な例を交えながら解答していただき、非常に参考になりました。
- ピアノを習っている子供の親ならみんな感じるであろう議題が多く、保護者に寄り添った素晴らしいセミナーで、終始頷きながら拝聴しました。同じように悩んで日々過ごしながらも、子供をサポートしている保護者がいると感じ、涙が出るお話もありました。コンクール参加者だけでなく、保護者全員に聞いて欲しい内容でした。
- すべて身に染みたの一言です。ピアノの先生にも踏み込んだ事まで聞けず、保護者同士の繋がりも薄い中、一人抱え込んでいた事が沢山ありました。ピアノを習っている保護者の方との共通の悩みがあり、自分だけでは無いと肩の力がかなり楽になりました。今日参加できた事、同志に出会えた事は、もやから抜け出せた感覚です。これから夏まで、今日のポイントを取り入れ、音楽が大好きな気持ちを忘れずに楽しみながら過ごしたいと思います。
- ピアノを習ったりコンクールに出たりすることが、ピアノ上達のためだけでなく勉強や自己実現においても有益であり貴重な体験であるということがよく分かりました。
- もともとコンペに参加する予定でしたが、セミナーに参加したことで、ピアノの上達だけを意識する考えから、子供の成長を意識する考えへと、視野が広がりました。
- ピアノをやる上で大切な生活習慣、勉強、運動などとのリンクが印象に残りました。運動、睡眠、栄養のほか、瞑想がいいこと、メタ認知機能の向上など新鮮でした。日頃の生活面で心掛けたく思います。
- 脳科学的に効率の良い練習時間の取り方が大変参考になりました。上手く弾けない部分があると弾けるまで長時間させてしまっていましたが、出来ない時こそ脳を休める時間を作ろうと思います。
- レガートとスタッカートの練習をバスで走らせてシールを貼るアイデアは、これなら私も楽しく練習出来そうと思いました。我が子が楽しく喜んで練習するための親として考えてあげられる練習方法を見出すことが私に出来ることのひとつなのだと思えました。
- 瀧先生の「努力を褒めて変化する力を与える」という言葉が刺さりました。
- 「親が楽しんでいる姿を見せる」ということも印象的でした。コンペは大変な道程だと思いますが、だからこそ周りがイキイキとしていたいものですね。
- 脳科学的な観点だけではく、そこに親と子の心の交わりが合わさって完成されていくものなのですね。まずは「楽しんでイメージを具象化する」ということ、そして練習時間が「成功した具体的なイメージを」創ってくれる。それを持ってステージに上がれることを目標に取り組んでいこうと思います。ピアノ、コンペのみならず、子どもの様々な成長過程において親が寄り添ってあげる時、どんな心持ちでいれば良いのかを説いてくださっているように感じました。
- 「人は失敗して成長する」のお話の中で、逆境から立ち直る練習が出来たと聞いた時、なるほど、そうポジティブな発想をすれば良いのかと気付きました。
- 失敗があったとしても継続していれば失敗にならないというのは、習い事だけでなくすべてにおいて指針になるように思いますので、今後も子供に関わる上で大切に覚えていきたいなと感じました。
- コンクールに出るからには気持ちは全国大会を目指して頑張ると言っておりますが、結果が伴わなかった時の対応や考え方がとても腑に落ちました。改めて「失敗とはどういうこと?」と自問自答しました。「失敗は通過点!」というお言葉が、そうなのか!とすごく心にストンと落ちました。振り返りはしますが、通過点という言葉があると過剰に落ち込みすぎたり引きずらなくて良さそうです。子供に対しても評価に過剰に反応せず落ち着いて対応できそうです。貴重な経験を親子でさせてもらっている、頑張っているんだと思える気がしました。
- どこまでピアノをやらせるか、勉強や趣味や部活などとの両立にまさに悩んでいましたが、多様性学習、少しずつでも続けていくことの効果などのお話を伺い、娘が断念するまでとことんやらせてみようと思えました。これから先頑張っていく支柱となりました。
- ピアノだけでなく、受験や長い人生において重要な内容で、とても参考になりました。「コンペは上達の手段の一つで、目的ではない」‥‥ついコンペに出るからには、と力が入りがちですが、親が肩の力を抜いて、長いスパンで見守る。そして、ピアノって楽しいなぁ〜と子どもが感じられる環境を作ってあげたいな、と思いました。
- 娘と共にピアノを続けて来られてよかったと思える内容でした。これからも出来るだけ長く続けていきたいと思います。