ピティナ・ピアノコンペティション

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第42回コンペ作文コンテスト結果発表!-2- 特選2作品

ピティナ・ピアノコンペティション作文コンテスト結果発表

2018年度コンペ作文コンテストの入賞作品を、毎週2作品ずつご紹介いたします。
今回は、特選に選ばれた2作品を全文掲載します。 入賞作品の結果一覧はこちら

ピティナ・ピアノコンペティション作文コンテスト

作文:特選

ピアノの森
亜鑫 アシン (愛知県・小学6年生・C級に参加)

「うわー。なんて気持ちが良いのだろう。」
たくさんの緑を目の前にしてぼくは思った。人間の世界とは空気が違う。森の素晴らしさを、ぼくは初めて体いっぱいに感じた。 ぼくはコンクールでひく最後の曲が、なかなか上手にひけなくて困っていた。先生が、「曲の中の物語を想像してごらん。」とアドバイスをしてくれた。ぼくは、目を閉じて、心を静かにし、じっとピアノに向かった。しばらくすると、頭の中にぼんやりと森がうかんだ。高い木に囲まれている僕が、曲に合わせて歩いたり、走ったりしている。なんとなく物語は完成したけれど、僕の心はなんだかしっくりしなかった。
「どうすれば想像通りにひけるのかな。」とぼくは思った。想像した森を絵にかいてみたり、色を付けてみたり、おどってみたりした。けれどなんだかモヤモヤした気分だった。
「どうしようかなー」と悩んだ。
「何をしてもだめなら本当の森に行ってみて実際に体験すればいいんだ!」とぼくは思いついた。
翌日朝早く、近くの森に行った。電柱よりも高い木がどこまでも並んでいる。空気を胸いっぱいに吸うと心が落ち着き、初めて聞いた葉擦れの音がとても快かった。所々木の葉から差しこんだ太陽の光が、まるで天国へ続く道すじのようで、この森には神様が住んでいるのかと思うほどだった。
「森の中は人間の世界とは全然ちがうなあ。」
僕は森に何かを教えてもらったような気がした。家に帰り、森の中にいる気分を体いっぱいに感じながらピアノをひくと、森の中の物語が曲に現れたような気がした。
コンクール本番当日お母さんが
「いつものようにひけば大丈夫。がんばってね。」と声をかけてくれた。僕は少しきん張しながら舞台に上がった。前の二曲はスムーズにひけた。最後の一番苦手な曲になった。あの時と同じようにゆっくり空気を吸って森を想像する。そして、森の中にこのピアノの曲が流れていることを想像して演奏した。その日の演奏の結果は、自分で思った以上にいい成績がとれた。僕は森が大好きになった。

コンぺで過ごした熱い夏
久保井 稔 (福岡県・グランミューズB2カテゴリーに参加)

 仕事のラインの通知から逃れるようにスマートフォンの電源を切り、受付を済ませて舞台袖に入ると手が冷たくなっているのに気づいた。緊張からだろうか、心臓がやけに胸の高い位置にあるような気がする。舞台でお辞儀をして椅子の高さと位置を整えてから腰掛ける。ペダルを踏み込んで、ふと前を見るとピアノの弦の先が遠くに見える。ファッツィオリという初めて触れるピアノは大きく見えた。そして最初の音が響いて私とピアノとの対話が始まった。そこから先はほとんど覚えていない。あとは身体が覚えている通りにいくかだ。

 グランミューズのB2は40歳以上の音楽を専門に学んでいない人のカテゴリー。とにかく音楽を楽しんでいる方が多い。53歳の私は中堅といったところだろうか。大先輩の方々が難曲に挑んでいる姿には感動する。速いところや力強いところなど、若い人のようにはいかないと思うところもあるが、時折聴こえる心を打つ音に胸が切なくなる。新しい曲に果敢に挑戦される方には勇気をもらえるし、毎年同じ曲を温めてある方には長編小説でも読んでいるかのような楽しみを感じる。そこにはその方の人生のテーマがあるように思えるのだ。

 それにしてもピアノはいい。自分一人で弾くのもいいが、人に向けて音を届けられることはそれ以上のものがある。二人の子どもたちにピアノを習わせたのがきっかけで始めた「おやじピアノ」。「なんちゃって感覚」で始めたのだが、まさかここまでハマるとは思わなかった。

 ところで仕事に追われてレッスンを受ける余裕がない私にとって、ピティナのステップやコンペティションは大切な里程標である。そしてステップのアドバイザーの先生方やコンぺの審査の先生方からいただいた講評は、いつも光を与えてくれる大切な宝物だ。魔法のレシピかと思うような具体的なアドバイスや、哲学的な問いかけもあり、実に深い。いつか仕事をリタイヤして時間の余裕が持てたら素敵な先生にゆっくりご指導いただいて、「ピアノの弾けるおじいちゃん」になりたい。

 最後の一音を弾き終えた時、心の中でピアノに手を振って別れを惜しんだ。暖かい拍手もいただいて胸がいっぱいになった。今年もコンペに参加させていただいて、甲子園球児みたいに熱い夏を過ごすことが出来た。自分史上最高に幸せである。応援してくれた家族や、励ましてくれたピアノ関係の友人に心から感謝したい。