ピティナ・ピアノコンペティション 審査員の状況と今夏のご報告
今夏のピティナ・ピアノコンペティションで、審査員の派遣数は2,007件にのぼり、844名の審査員でこれを分担していただきました。
オンラインのコンクールも増えている昨今、実地での開催は困難を伴うことも多く、そのような中でお力添えいただいている審査員の皆さまへ感謝を申し上げるとともに、審査を取り巻く状況についてご紹介いたします。
今回のトップニュース作成にあたっては、審査員836名を対象としてアンケートを実施し、500名以上の先生から回答をいただきました。
2024年度の参加者数は前年比95%と減少しており、特にA1級が前年比90%を下回っています。一方で、自由曲で参加できるグランミューズ部門の参加者は年々増加しています。
審査員の多くはご自身もコンペティションに生徒さんを出している指導者であり、アンケートで指導現場の体感を尋ねました。
今年のピティナ・ピアノコンペティションについて、昨年と比較した印象をお聞かせください。
- 改善した 45件
- やや改善した 95件
- 例年どおり 353件
- やや悪くなった 19件
- 悪くなった 2件
- 地域によってレベル差があったり、部門によって参加人数に差があったりして、通過基準にばらつきがあると感じる。レベルの高い地区では、優秀な演奏でも通過できないことがある。
- 参加者が少ない地区では、実力不足でも通過してしまうことがある。
- 曲のジャンルなどで部門を分けてほしい。
- 年齢制限の見直しや、ペアを変えての参加回数に制限をつけてほしい。
- アンサンブルを重んじる部門としてソロ同様に最高位の設置とブランディングを検討してほしい。
- 特にF級などは演奏時間の下限が設定されているが、地区によっては一人当たりの持ち時間がそれに対して短い場合がある。
ピティナ・ピアノコンペティションは、採点とともに直筆の寸評が書かれた採点票がもらえることが大きな特長です。採点制度は過去数十年の歴史の中で、幾度も改訂を重ねてきました。昨今では、参加者の演奏レベルが向上していることから、採点自体もインフレ傾向にあります。
また、公平性の担保に重きを置いており、特に予選(A2~F級およびデュオ部門連弾)は基本的には生徒さんが出ていない地区の審査をお願いしたいので、計1億円を超える多額の交通宿泊費を投じて物理的に遠距離の派遣を行っています。これは、全国の会員・審査員および支部の交流を促進し、組織としての力を高める目的もあります。
審査制度について、以下の項目で改善すべき点があればお選びください。(複数回答可)
- 予選通過の目安である基準点を7.8点としているのに対し、実際には最低でも8点台前半の点数がないと本選には進出できないという状況が当たり前になり、高得点の安易な付与が目立つ。
- 審査員間で基準点の認識に差があり、目安に厳格な審査員が批判にさらされることがある。
- 高得点が頻発することによって使用する点数の上下幅が狭くなる、あるいは下限が高くなり、同点が頻発したり、優れた演奏が正当に評価されない可能性がある。
- 採点の目安を逸脱して飛び地的な採点が行われることで、極端な高得点・低得点が発生し、一人の審査員の採点が予選通過に大きく影響することがある。
- 予選では上下カットがないため、極端な採点の影響が大きいと思われる。
- 予選での上下カットや順位点を導入するシミュレーションを行いましたが、審査結果のうち特に入賞に関わる部分についてはほぼ変化が無く、現在の採点方法でも、審査員の意志を適切に反映している可能性が高いという結果になりました。順位点の導入により、かえって個性的な演奏が排除される可能性も懸念されます。しかし、インフレや目安からの逸脱により、参加者は受け取った点数がその審査員の採点分布の中のどのあたりにあるのかが分かりづらくなるため、偏差値化して結果を出すという案も検討しています。
- A2~C級とD級以上など、年齢やレベルで審査員を分けてほしい。
- 時間計測と寸評執筆を同時に行うのは負担が大きく、審査に集中できない。
- スタッフにカットしてもらうか、あるいはカット手間ぶん審査時間を伸ばしてほしい。
各地の予選・本選は、土日や長期休暇中の開催が多く、会場の予約は困難を極めます。交通の便の良い場所で、必要な日数を毎年安定的に確保することが難しい場合もあり、遠方からのアクセスがむずかしい会場や、施設の使用時間・手配日数によりスケジュールが過密になってしまうケースがあります。
審査現場の環境について、以下の項目で改善すべき点があればお選びください。(複数回答可)
- 審査時間が長く、体力的に厳しい。集中力の維持が難しく、審査の質に影響する可能性がある。
- 1日の審査時間を短縮するか、長時間の場合は休憩時間を増やす必要がある。
- 地域によっては予選や本選が1地区のみの開催となってしまうケースもあり、限られた会場使用時間で参加者をなるべく受け入れる方向にあるため、審査員に負担を強いることがあります。あまり長時間の審査は質が下がる懸念もあるため、運営者としてはギリギリのところでバランスをとろうと試みていますが、コンクールの根本的な課題であることを認識しています。
- 10分休憩では、トイレ休憩や点数確認だけで時間切れになることが多い。特に低学年部門は演奏時間が短く、寸評を書くことに追われる。ホールの構造や審査員控室の動線によるところも大きい。
前述の通り、公平性の担保や交流の促進のため、交通宿泊費に多額の予算を計上しており、その一方で審査料についてはまだ十分にお支払いができているとは言えない状況です。しかし、コンペティション単体ということでは、トピック1でご紹介した通り、参加者数が減少している状況ですので、新規事業も含めて収支の改善を図ります。
そのような中で、各地の審査にご協力くださる先生方に、ご自身にとっての参加意義をお尋ねしました。
審査をお引き受けいただくことについて、ご自身にとってどのような意味があるとお感じですか?(複数選択可)
ありがたいことに、音楽教育や指導者同士の交流に意義を感じてくださっているという回答が多かったです。その他の意見として、年間業務のメインの活動である、または審査員であることが経歴としてプラスになり活動の幅がさらに広がる、足を運んだことのない地域で現地の状況をリアルに経験できるなどのご意見がありました。
インバウンド需要の影響により、宿泊費の高騰という大きな課題を抱えています。開催は土日や長期休暇中が多いため、宿泊費の高騰だけでなく、まずホテルを確実に手配すること自体、困難を極めています。具体的には、2024年度は2021年度と比較し、旅費の総額で3000万円程度の支出増となっています。
また、台風などの自然災害の発生が重なるケースも増加しており、特に遠方からの移動となる審査員の交通には大きな影響が出ています。
旅行や宿泊に関して、トラブルやご不便を感じた点はありましたか。(複数選択可)
- 宿泊費の高騰、ホテルの質のばらつき、アクセスの困難、周囲の食事場所が分からないなどの問題がある。
- 宿泊手当の限度額を引き上げてほしい。また、周辺環境の情報を詳細に提供してほしい。
- タクシーの予約が場所によっては困難であり、ホテルを通しても手配ができないケースが増えている。また、交通の遅延や天災の影響によってトラブルがある。
- 事前の現地の情報提供、代替手段の確保など、柔軟な対応をお願いしたい。
審査員の定年は一律には設けておらず、しかし毎年多くの新人審査員の登用を心がけています。審査メンバーの多様性を確保し、また審査の公平性を担保するために、できるだけ多くの地域の先生方を登用し、各地に派遣したいと思っています。2024年度は若手指導者・演奏者を含む39名の新人審査員を派遣しました。
以下のアンケートから分かる通り、ありがたいことに多くの先生から引き続き審査を務めたいという回答をいただいています。
一方で、審査員の登用にあたっては、初回の派遣前の研修を除き、継続的な研修や交流の機会がなく、日々アップデートされるコンペティションの状況について、認識を新たに共有することが必要と考えます。
また、動画予選の普及を目指し、その過程では海外に拠点を置く会員の皆さまへオンライン審査をお願いしたいと思っています。日本の音楽教育の発展のため、ぜひピティナへ参画いただければと思います。
今後の審査員派遣について、ご希望をお聞かせください。
- 来年も審査員を引き続き務めたい 492件
- 来年は別の部門・カテゴリーを審査したい 14件
- 審査員を辞退したい 0件
- その他 8件
- ベテラン審査員の経験値と若手審査員の新鮮さのバランスが重要である。
- 複数地区の参加を控えている場合が多いので、生徒の成長に繋がる具体的な内容が求められている。
- 遠方からの参加や、舞台での演奏が苦手な参加者にはメリットがある。
- 参加人数が少ないため、通過割合が実地よりも大きくなるケースがあり、実地審査とギャップがあると感じる。
- 録画環境や使用楽器のばらつきがあるため審査が難しい。
- 継続参加のモチベーション向上に繋がっている。
これらの意見を踏まえると、様々な課題に取り組む必要性が示唆されます。ピティナ・ピアノコンペティションの審査員は、ご自身が指導者でもあり、またコンクールの運営者でもある先生が多くいらっしゃいます。参加者目線のニーズや、指導者目線で活用したいと思えるコンクールとして発展できるよう、協力して音楽教育に貢献してまいります。