ピティナ・ピアノコンペティション

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2022特級セミファイナル新曲は、森 円花氏に作曲を委嘱しました

8月14日に迫ったセミファイナルを前に、7月29日、三次予選結果発表の夜、いよいよ「新曲」の楽譜が2022年度セミファイナリスト7名の手に渡りました。7人のピアニストたちは、まさに今、まっさらなキャンバスに、新しい絵を描いています。すっかり恒例となったセミファイナル新曲課題曲、今年は、作曲家の森 円花先生に委嘱させていただきました。タイトルは「前奏曲 ~未知なる世界へ~」、英題では「Prelude to the Uncharted」と名づけられています。「Uncharted」は「地図に載っていない、未踏の」という意味。まさにこのセミファイナルを起点として、地図のない人生を勇気をもって歩んでほしいという森先生の温かなエールが作品の隅々にまで染みわたり、ピアニストたちとの化学反応が非常に楽しみな作品となりました。

また、作品が生まれる初めの時期から、昨年までに引き続きピアニストの片山柊さん(2017年度特級グランプリ)に監修をお願いしました。最初の楽譜に見事な命を宿してくださり、その後も、演奏と作曲の両面を知り、日本の作品を愛し、さらにコンテスタントの心情や状況も知る貴重な立場から多くの有益な示唆やご指摘をいただき、重要な役割を果たしていただきました。

8月14日、「前奏曲 ~未知なる世界へ~」を携えて、7人の新たな航海が始まります。ぜひお聞き逃しなく。


★新曲課題 タイトル
「前奏曲 ~未知なる世界へ~」(2022)

演奏時間4分程度

◆ 作曲家・森 円花先生よりメッセージ
初演に寄せて

この作品をリゲティ(1923)以降およそ100年分の歴史の理解力や知識力、分析力、表現力などの向上も兼ねた作品にすることも、課題曲作曲家としての役割のように感じておりました。故に、この作品に関しては少しばかり時代を遡るような、前衛時代を想起させる表現も使用しています。結果として歴史の理解だけではなく、新しい時代がはじまろうとしている'いま'を、より強調するものとなればと願っております。
また、演奏家の筋肉的な演奏技術よりも知的好奇心を刺激し、音楽的感性や個性が強調される音楽を創りたいと考えておりました。この作品の演奏には確かな分析に基づく表現力と想像力、音楽に対して意思や意見を持つこと、歴史への理解、また、音楽のみならず美術などの多様な芸術への理解、更には現代社会への興味と理解が鍵になると考えております。私自身、ここ数年音楽を越えた多用な芸術とのかかわりに恵まれ、それが逆に音楽への理解を深めることになっていると感じております。そうした中で、もう少し早くから音楽に留まらない芸術の学びを深めていればと思うことも多々あります。特に、音楽の概念が革命的に変化した戦後の芸術を理解するためには、こうした要素は必要不可欠なものでしょう。だからこそ、この経験を多くの若いピアニストの皆さんと共有し、この共有が音楽業界の質の向上と、社会における業界の発展に繋がってほしいという期待を描いております。
「Prelude to The Uncharted」(前奏曲 未知なる世界へ)には演奏者自身が音を選択する箇所がありますが、ここには無限の可能性があり、皆さんの音楽的感性と個性を存分に落とし込んでいただきたいと考えております。楽曲と演奏家との間にどのような化学反応が起こるか楽しみです。私にとって、ステージで輝く演奏家の姿は最大のインスピレーションです。
この音楽を若きスターたちに贈ります。

作品解説

2020 年を境に世界は大きく変化した。様々な問題が絡み合い混沌とした現代社会において、いま、新しいフェーズが始まろうとしている。
偶然にも時を同じくして作曲家としての仕事の幅が広がり、美術など様々な芸術との関わりを通し、現代社会の問題を芸術の中に落とし込むという一種の技術に大きな影響を受けた。
「前奏曲」とは音楽史上において長い歴史を持つ音楽用語である。しかしここでの意味は古典的な意味にとどまらず、現代の社会的意味合いも含んだ新しい言葉として扱っている。
また、この作品はセミファイナルにて若きピアニストたちによって初演される。そのセミファイナルのステージが、彼らの無限に広がるキャリアへの前奏曲となるかもしれない、この前奏曲から続く音楽家人生の本章が素晴らしいものになってほしい。そのような願いも込めてタイトルを「前奏曲」とした。

プロフィール
森 円花(もり・まどか)◎1994年生まれ。高校・大学共に桐朋学園にて三瀬和朗氏に師事。在学中よりE.Tanguy, I.Fedele, S.Gervasoni各氏の指導を受ける。
20歳で第83回日本音楽コンクール(管弦楽)2位受賞。受賞作品を機に一柳慧に発掘される。一柳慧コンテンポラリー賞を史上最年少で受賞。
代表作として、サントリーホール委嘱作品「ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲 ヤーヌス」(2020)、小川恭子委嘱作品「神話 独奏ヴァイオリンのための」(2020)、田原綾子委嘱作品「アオイデ 独奏ヴィオラのための」(2019)、上野通明委嘱作品「ヴォカリーズ 独奏チェロのための」(2018)、「音のアトリウムⅢ 独奏チェロとオーケストラのための」(2018)(2014)。また、編曲作品として田原綾子委嘱作品「ヴィオラのための日本の名曲シリーズ」(2015~)、サントリーホール・与那城敬(東京二期会)委嘱作品「カタリ・カタリ」(2020)など。
また、本條秀慈郎・(株)傳燈樂舎委嘱作品「三番叟 十七絃、尺八、大鼓、三味線のための」(2021)や、2018年神奈川芸術財団プロジェクトにて演出家・俳優の白井晃氏と映像と音楽の融合作品、2021年紫綬褒章受章美術家小清水漸氏と(株)東京画廊+BTAPにて展覧会を開催するなど、幅広い分野における芸術にも重きを置いている。
新作として、東京オペラシティ文化財団・上野通明委嘱作品「不死鳥~独奏チェロのための~」、Music From Japan(New York)委嘱作品、東京オペラシティ文化財団・田原綾子委嘱作品、クリスチャンディオール特別顧問谷口久美委嘱作品オペラ「光子」などを控える。
2020年MORI MUSIC OFFICE ( https://morimusic.official.ec/ )設立。著作権共有など委嘱の現代化、多様化を推進。2017年23歳で桐朋学園大学・高校非常勤講師就任。関連書籍として青柳いづみこ著「音楽で生きていく」(アルテスパブリッシング)など。
◆ 監修・片山柊さん(2017グランプリ)からのメッセージ

2020年から務めさせていただいている特級新曲課題の監修も3年目になりました。

本年度の委嘱作品である森円花さんの「前奏曲~未知なる世界へ~」は、ピアノの特性が最大限に活かされた力強く歌心に溢れる作品です。冒頭のセクションでは即興的な要素を含み、ピアニスト自身が演奏する音を決断することで作品が完成します。大きな可能性を秘めた7名のセミファイナリストの皆様には、森さんの様々な願いが込められたこの作品との出会いを大切に、今回に留まらず様々な機会で演奏してほしく思います。