ピティナ・ピアノコンペティション

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【課題曲チャレンジ連動企画】角野隼斗さん(2018年度特級グランプリ)インタビュー(前編)

課題曲チャレンジ連動企画角野 隼斗さん インタビュー~試行錯誤するプロセス~
前編

2018年度特級グランプリとして、4月にメッセージをお寄せいただいた角野隼斗さん。その後もYouTubeでの演奏動画の数々、Twitterでの「#playwithcateen」企画、5月にはピティナYouTubeチャンネルでライブ配信された『丸の内GWミュージックフェスティバル2020』への出演と、Stay at Home, Keep on Musicを体現する活躍をされています。

コンサートでの演奏経験、YouTubeでの動画投稿、スタジオでの録音など、豊富な経験を重ねてきた角野さんに、課題曲チャレンジを起点に、録音での姿勢・アドバイスから現代におけるクラシック音楽への位置付けまで、硬軟自在にお話いただきました。

課題曲チャレンジに参加される方はもちろん、Cateenファン、演奏家にも必見の内容です。

前編は、自宅の楽器、発想の源泉となった「ゲーム」の思考法、録音することについて。

  • 本インタビューはZoomでの実施。

後編


1. 自宅の楽器 ~トイピアノからスタインウェイまで~

課題曲チャレンジは「自宅のピアノで」参加する、というのが特徴の企画ですが、角野さんが育った「自宅のピアノ」についてお聞かせください。

母がピアノ教師だったので、自宅のリビングにはグランドピアノ(ヤマハのA1)がありました。ヤマハのA1はサイレント機能がついていて、タッチや音が好きでした。

スタインウェイはいかがですか。注1

ピアニッシモが綺麗に鳴るピアノで、弱音の美しさに惹かれます。倍音成分が良くも悪くもクリアでないので、フォルテで和音を弾いた時にまろやかな響きになるところも好きです。

電子ピアノもお弾きになりますが、特長はどのようなところにあると思いますか。

電子ピアノはタッチの重さ、アクション、音色などを変更できるので色々な条件に慣れることができる点は強みだと思います。スペースを取らない、音量を変えられるなど実用的な長所ももちろんですが。

トイピアノも演奏されています。楽器としてどのような印象でしょうか。

思ったよりも音量調整が出来ることが驚きでした。小さな楽器ながら、綺麗な音が十分な音量で出せ、なおかつダイナミクスもコントロールでき、調律も狂わない。すごい楽器です。今後も弾き続けたいと思っています。

参考
トイピアノの音域を超える音を出す「裏技」も。
2. 原点となった「ゲーム」の思考法

次々に企画を生み出す角野さんの「好奇心」の源泉は?

小学校低学年の頃、「つまらない練習を楽しくしよう」と様々に工夫をしていました。たとえば、難しいパッセージに当たった時に、サイコロを振って出た目に応じてテンポを上げてみたり、リズム練習をしたら赤を塗り、ゆっくり練習したら緑で塗り、絵を完成させたり。

ゲームが好きだったことが大きいと思います。「ゲーム」は抽象化すれば、「一定の制約のなかで、いかにパフォーマンスを上げるか」と言えますが、中学以降は、制約・枠組みを認識し、どうすれば最大の結果を得られるか、という形式で好んで考えてきたことが、今に繋がっています。

動画投稿を始めたのは?

ニコニコ動画で多く投稿されていた「演奏してみた」に影響を受けて、投稿をはじめました。

参考

「保護者のための勉強会 ~子どものコンクール参加を考える~(角野美智子先生)」
角野隼斗さんのお母様の講演。
角野家の「ゲーム」(18:45~)についても取り上げられています。

  • 全編視聴には有料会員登録が必要です。
3. 試行錯誤するプロセス

5月3日に投稿されたのが、ショパンの「木枯らし」。公開まで2ヵ月かかったということですが、クラシックには特別な思い入れがありますか。

思い入れというよりも、クラシックの楽曲は考えるべきことが多いため、時間がかかりました。とはいえ、クラシックは一番長く勉強してきたジャンルであり、自分の原点・ベースであるので、大切にしています。

クラシック音楽の楽曲は過去に膨大な録音の堆積があります。

有名な作品のよい録音は大方出尽くしているので、録音に関して今の世代で出来ることは少ないかもしれません。しかし、YouTubeはライブでもレコーディングでもない新しい形です。だからこそ、映像を大事にしたいと思っています。何か新しいことをしたいという気持ちはあります。

来年挑戦されるショパン・コンクール。予備審査では映像審査がありました。昨年の収録の様子についてお聞かせください。注2

録音を撮っては聴いて、撮りなおすという試行錯誤の繰り返しは体力のいることでした。金子勝子先生、ピティナの加藤さんの立ち会いがあったので、外部の意見を取り入れられる、というのが有難かったです。録音が終わっていないのに金子先生の声がかかることもあり、別の緊張感もありました(笑)

試行錯誤というのは、具体的にどのようにされますか。

理想と違うところや、通して聴いたときに整合性のないところを見つけたら、撮り直します。正解のない領域に入ると、1日経てば意見が変わることもあり、試行錯誤の沼にはまってしまう時があります。そこでは外部の意見が助けになります。

正解のない世界で、最終的にOKを出す基準は?

YouTubeでOKテイクを出す基準は、自分自身が「ノる」ことができた、と感じるかどうか、自分で聴いて心動くかどうかを重視しています。

自分の録音に対しては「ここがダメ」、「ここにミスがある」といったように減点法になりがちですが、減点法に陥ると本来大切なことを見失ってしまいます。最終的には、全体を通して聴いたときに自分で「良い」と思えるかどうか、全体の音楽の流れを基準にしています。

参考
2020年5月3日公開。「右手が全体を通して技巧的な「練習曲」なのに、それでいて大きく感情を揺さぶられる恐ろしい曲。」

  • 2018年特級グランプリの副賞として貸与されたスタインウェイ。4月に購入。角野さんは購入時の心境をnoteに綴っています。
  • ホールでの収録。角野さんを指導してきた金子勝子先生のほか、ピティナの加藤哲礼(育英・広報室長)も立ち会った。

後編はこちら
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