スペシャルよみもの&課題曲ワークシート
ピティナ・ピアノコンペティションは「四期」を学べるコンクール。
A2・A1・B級に挑戦する生徒さんへ向けて、ワークシートを作りました!
演奏を聴きながら、「自分の好きな曲はどれだろう」とか「どんな曲を弾いてみたいかな?」などと考えてみてくださいね。このページは先生やおうちの方と一緒に読みながら、ワークシートとあわせて使ってください。
ピティナのコンペティション課題曲は、クラシック音楽の時代を大きく「バロック」「クラシック」「ロマン」「近現代」の4つに分ける考え方にもとづいて決められています。
西洋の音楽の歴史の中で「バロック期」と呼ばれるこの時期は、日本は江戸時代まっただなか。お侍さんが活躍していた時代に、はるか海の向こうのヨーロッパでは、イタリアをはじめとした広い地域で音楽が盛んになっていきました。
「バロック期」の音楽の多くはキリスト教会や、王様や貴族などが住むお城で演奏するために作られました。教会では、古くからオルガンや聖歌隊によって神様への祈りをこめた音楽が演奏されていました。いくつものパートを重ねて演奏されるその音楽は「ポリフォニー(多声音楽)」と呼ばれます。バロックを代表する作曲家の1人、J.S.バッハはポリフォニーの名人だったことでも知られています。
お城では、豪華なサロンに貴族が集まって、現代のピアノの前身である「チェンバロ」を囲んで、演奏やダンスを楽しんでいました。お城も楽器も音楽も、とても華やかな装飾で彩られていました。
速さ・雰囲気・拍子などその種類はさまざま。ここではA1・A2・B級の課題曲に登場しているものを取り上げます。
メヌエットはフランス語で「小さい」という意味。ステップ(足の動きのこと)がとても小さいことから名づけられました。
3拍子の音楽で、中ぐらいのテンポで演奏されます。ステップは「6つの拍で1つ(2小節で1つ)」を基本とし、1拍目と3拍目に重みがきます。お城では、王様や貴族たちが周りで見ているなか、男女1組のペアで踊っていたのだそう。メヌエットはむずかしい踊りでありながら、とても人気がありました。
ゆったりとしたテンポで演奏され、落ち着いた雰囲気があります。サラバンドも3拍子の音楽。2拍目にむずかしいステップがくるので、そこは少し時間をかけて踊ります。
リゴドンは生き生きとしたとても軽やかな踊り。4分の2拍子や4分の4拍子で作曲されています。
フーガとは元々は「逃走」という意味。1番最初に出てきたメロディを、他のパートが次々に真似をしていきます。曲の最初に登場するメロディにはたいてい何も伴奏がつきません。「このメロディがこの曲のテーマです!」とはっきり分かるように登場します。
- J.S.バッハ(1685-1750・ドイツ):G線上のアリア
- A.ヴィヴァルディ(1678-1741・イタリア):『四季』より「春」第1楽章
- G.F.ヘンデル(1685-1759・ドイツ出身、イギリスで活躍):水上の音楽
この頃のヨーロッパでは、フランス革命や産業革命といった、時代を大きく変える出来事がたくさん起こりました。教会や宮廷の力が弱まる一方で、民衆の生活によゆうが生まれ、これらの人々が音楽にふれる機会も多くなってきました。
バロック期以前は教会や宮廷に仕えていた音楽家たちも、この時期になると演奏会や楽譜の出版などを通じて、自分の手でお金を稼ぐようになります。また、「ソナタ形式」など音楽の「型」が多く生まれたのもこの時期です。
クラシック期を代表する作曲家は「古典派」とよばれ、F.J.ハイドン、W.A.モーツァルト、L.V.ベートーヴェンの3人が特に有名です。ここでは今年生誕250年を迎えたベートーヴェンについて詳しく取り上げます。
ベートーヴェンは1770年にドイツのボンで生まれました。宮廷歌手のお父さんを持ち、小さいころから厳しい音楽の教育を受けました。
若いころから音楽の才能を開花させていったベートーヴェン。16歳のころにはハイドンにその才能を認められ弟子入りし、その後ウィーンではピアノの即興演奏の名手として人気となりました。
しかし、音楽家としていよいよこれから!という時期に、ベートーヴェンの人生は耳の病気によって大きく変わってしまいます。そのあまりの苦しみから「ハイリゲンシュタットの遺書」と呼ばれる手紙を書きましたが、その手紙には同時に、音楽への情熱と『芸術に身をささげることこそが自分の生涯の使命』とする強い決意が書かれています。その後もベートーヴェンは、ピアノ曲はもちろんのこと、交響曲や室内楽などたくさんの作品を書き続けました。32のピアノ・ソナタはピアニストにとって大切なレパートリーとなり、「運命」や「第九」などの交響曲はクラシック音楽を代表する名曲として、時代を超えていまなお多くの人たちに親しまれています。
- 交響曲 第5番 ハ短調 Op.67「運命」
- ヴァイオリンソナタ 第5番 ヘ長調 Op.24「春」
音楽はここまで「キリスト教会や王様や貴族などが住むお城で演奏するためのもの(バロック)」から「一般の人も楽しめるもの(クラシック)」と変化してきました。ロマン期では一般の人たちもピアノを持つようになり、それまで「聴いて」楽しんでいたところから、自分たちで「演奏して」楽しむことができるようになりました。音楽の楽しみ方はさまざまに、そして多くの人たちへ広まっていったのです。
この時代で名前が残っている作曲家は「自分の表現したい音楽を作る」ことで人気を得ました。この時代に生きた作曲家ではシューベルト(1779-1828)、ショパン(1810-1849)、リスト(1811-1886)、ブラームス(1833-1897)などが有名です。彼らはピアノのための作品をたくさん作曲し、たびたびサロンなどで作品を披露しました。中でもリストは、テクニックをみせつけるような曲をたくさん作って大人気ピアニストになりました。
そのほかにも、詩や小説、美術など様々な芸術の影響を受けるようになったり、作曲者自身の強い想いや感情を音楽に結びつける作品が多く生まれました。たとえばシューマンは文学作品を音楽で表現しようとし、恋人クララへの溢れんばかりの想いを込めた曲をたくさん作曲しました。ロマン期は、クラシック期までに形作られた「型」を意識しながらも、表現の幅がぐっと広がっていった時期なのです。
- F.ショパン(1810-1849・ポーランド):ポロネーズ 第6番 変イ長調 Op.53 「英雄」
- J.ブラームス(1833-1897・ドイツ):2つのラプソディ Op.79
クラシック期やロマン期は、それまでに形作られた「型」を意識しながら、その型の中で物語や個人的な感情を表現し、またそれが美しいとされていた時代でした。だいたい20世紀以降からはじまる「近現代」では、ロマン期までの枠組みを超えて新しい作曲の仕方や表現方法が生まれ、なにを「美しい」とするのかも、音楽家によって様々になっていきました。
近現代のはじまりを告げる音楽家の1人とされるフランスのドビュッシーは、「水に映る光」や「風景」「気分」などをいろどり豊かな音で表現しました。そんな彼の音楽は、同時代を生きた印象派画家の絵を連想させたことから、ラヴェルの音楽などとともに「印象主義音楽」と呼ばれました。
この時代では、世界中に西洋音楽が広がり、各地の様々な音楽が交じり合っていきました。また、まるで音楽(もしくは音)を使って実験をするかのように、さまざまな試みが行われました。たとえば、ピアノの鍵盤を腕全体や肘を使って弾いてみたり、それどころか曲の中で1度も鍵盤に触らなかったり…。近現代の音楽は、こうした挑戦や様々な音楽が取り入れられることによって、その美しさも面白さもより「いろいろ」になっていったのです。
自分が弾く曲はどんな時代に作曲されたのか、また作曲家の歩んだ人生など「曲の背景」を知ることで、さらにその曲が好きになり、素敵に演奏したい!という気持ちが大きくなるのではないでしょうか。ぜひたくさん本を読んだり、名人の演奏を聴くなど、好奇心を持って音楽に接してみてください。今よりもっと練習が楽しくなって、演奏もより素敵なものになるはずですよ。
このページとワークシートが、練習や演奏の手助けになれれば幸いです!