ピティナ・ピアノコンペティション

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上田実季さん(第42回ピティナ特級銀賞)ロングインタビュー

入賞者記念コンサートの旅 ~一期一会を噛みしめる~

各地で入賞者記念コンサートが開催されています。ピティナ・コンペティション参加者にとっては夢のステージ。そんな輝きの向こう側を、2018年特級銀賞の上田実季さんが「ゲスト演奏者」の一人として旅しました。各地での出会いを振り返り、子どもたちにメッセージを送るロングインタビューです。

昨年の11月から12月にかけて、鳥取・岡崎・諏訪・沖縄の4つの入賞者記念コンサートにゲストとして参加させていただきました。バッハの「トッカータ」やシューマン=リストの「献呈」、ブラームスの「四つの小品 Op.119」などを演奏しました。それぞれの土地で、たくさんの出会いがあり、本当に素晴らしい経験をさせていただきました。12月はほぼ毎週の土日、入賞者記念コンサートで各地を巡っていました。
 ピアノを一生懸命学ぶ子どもたちと間近でコミュニケーションを取ることができたのは、大切な経験になりました。これまでもアウトリーチ活動などで、子どもたちの前で演奏させていただくことがありましたが、自分と同じようにピアノを学ぼうという意欲を持っている子どもたちばかりの前で演奏する入賞者記念コンサートは他にはない特別な機会だと思います。

各地での出会い

入賞者記念コンサート巡りは、地元にほど近い岡崎からはじまりました。会場となった岡崎市シビックセンター「コロネット」は、私自身が昔ピティナのコンペティションで舞台に上がった思い出の場所です。「帰ってきた!」という感慨がありました。岡崎の子どもたちの姿が、昔の自分と重なって見えるようでもあり、舞台裏で足ペダルを用意して、「がんばってね!」と子どもの背中を叩くお母さんたちの姿をみていると、ピアノのレッスンやコンぺティションを応援してくれた両親のことを思い出しました。それにしても、岡崎の子どもたちの雰囲気には、和やかなだけではない来年のコンクールへの意欲の強さを感じました。ちょっと愛知らしいというか・・・自分の小さい頃に似ているなとやっぱり昔を思い出しましたが、気のせいかもしれません笑。

鳥取や沖縄の入賞者記念コンサートは、すごくアットホームな雰囲気。どの先生同士も知り合いで、お互いの生徒さんたちのこともよく把握できる距離感なんです。地域全体でコンペを頑張ろうという雰囲気に溶け込ませていただいて、たくさんの指導者の先生や子どもたちに話しかけてもらうことができました。会場だけでなく打ち上げでも、子どもたちとコミュニケーションを取る機会を沢山いただけたので、特別にアットホームに感じたのかもしれません。鳥取では、ピティナ梨花ステーションの先生方の教室生と地元バレエ教室の子どもたちの共演ステージもあり、素敵でした。観光で連れて行っていただいた鳥取砂丘は、冬のイルミネーションに彩られていて、夜の砂丘は冷えるのですが、心はとてもあったかくなりました。

じつは私は鳥取も沖縄も今回がはじめてでした。沖縄の冬の暑さをよく分かっておらず、ニットのワンピースを着ていたので、子どもたちにも保護者の方々にも「えっ」と不思議がられてしまいました。

諏訪は、歴史が非常に長い入賞者記念コンサートでした。新聞社のインタビューを受けさせていただくなかで、長野の重さを背負ったコンサートに出場させていただいたことへの感謝の気持ちが溢れてきました。

諏訪では忘れられない再会もありました。特級ファイナルの翌日に開かれた祝賀会で、とある連弾のペアの女の子と一緒に記念写真を撮っていただいたのですが、諏訪のコンサートにその子たちがお母様と一緒に来て下さり、現像した写真とお手紙のメッセージを渡してくださったんです。「あ、あの時の!」と思ってびっくりしましたし、特級の祝賀会でみなさまと撮った記念写真は、あまり手元に残っていないんです。祝賀会場での私は「私の携帯でも撮ってください」と咄嗟に言い出せず・・・だからこのような形で写真を受け取ることができ、大切な宝物になりました。

諏訪のコンサートでは私以外にも若手のピアニストのゲストが何人もいらして、交流を持つことができました。その中のお1人がたまたま同郷の方で、ここでも不思議な縁を感じました。

「一期一会」の意味

どの場所でも、忘れられない出会いがあったんです。そんな旅先で「一期一会」ということについて、とても考えさせられました。多くの方に、「CD出たら買うからね!」「特級ファイナルの演奏よかったよ!」と応援の声をかけていただきました。中には「銀賞で悔しかったでしょう」と気持ちを察しようとしてくださる方もいて、その実、私は特級銀賞という賞をいただけるとは思っていなかったほどで、賞をいただけただけで感謝の気持ちでいっぱいだったので、その場でうまくお返事することができなかったのですが、私の気持ちを超えるくらいの感情移入をしてくださるみなさまの声が、応援となって私の背中をさらに押してくれるようでした。

そうして声をかけてくださった方の中には、二度と会えない方もいるかもしれない。遠い場所だからなかなか会いにいけないというだけではなくて、小さい子たちの中にはピアノを辞めてしまう子もいるかもしれず、そういう「一期一会」を考えれば考えるほど、目の前の誰かへの恩返しではなくて、私のこれからの姿で一人でも多くの「一期一会」のひとへの恩返しをするということの意味を噛みしめます。入賞者記念コンサートをゲストとして巡るというピティナで受け継がれてきた伝統への感謝の気持ちも溢れてきます。 今回出会った子どもたちが一人でも多くピアノを続けて、音楽の世界で再び出会うことができたら・・・と思わずにはいられません。

コンぺティションの子どもたちへ

コンペティションを目指す子どもたちには、自分と他人を比べたりといった目の前のことに捉われず、音楽が好きな気持ちや曲を弾きたいという気持ちを大切にしてもらいたいです。私自身は、「ピティナで飛び級したい」と思ったりする強気な子どもだったのですが・・・でも音楽が好きという気持ちを大切にして、ここまで来れました。

各地のコンサートで参加者のみなさんの演奏を聴かせていただいていたのですが、「みんなめっちゃ上手い・・・」と思いました。私が子どもだった時、こんなに弾けたっけ?と。曲への想いが伝わってくる演奏に、思わずプログラムを確認してみると「この曲を弾くためにがんばってきました」というコメントが寄せられていることもしばしば。曲自体への憧れや、かっこいい曲を弾いていた先輩への憧れ、弾けるようなりたいという向上心がとっても純粋で、ピアニストとして忘れてはいけないことを思い出させていただいたように思います。

私が子どもだったころに比べて、みんなの「特級」への距離感が近くなっているように感じます。子どものころの私にとって、特級は「大人の世界」で「夢の夢の夢」でした。でも、いまの子どもたちはSNSやYouTubeを通して特級の演奏をよく見ているんです。特級のことを、すごく具体的に知っていて、その上で私に質問を投げかけてくれました。「YouTubeのひとだ!」という感じで、接してくれるんです。

「特級」は、エントリーするだけでも「どきどき」の体験です。そんなどきどきを目指して、大きな目標と向き合う幸せを味わいながら、ピアノを続けていってほしいです。

上田実季さんの今後のコンサートの予定